①「ウィ!、ウィ!、ウィ!、ウィ!・・・・・」セットしておいた目ざまし時計かと思って起きると携帯電話のエリアメール。『地震だ!』と飛び起きて身構える。忘れていたこの感覚。幸い埼玉は大した揺れもなく安堵。でも瞬時に平野部を津波が押し寄せて行く映像、、湾岸部で家や船や諸々が・・・そこには人影も・・・流されていく映像、原発が爆発した事と放射能・セシウム・・・・この先、生活はどうなってしまうんだろうという不安。忘れかけていた感覚が一気に戻ってきて朝が始まった。
②本当は金曜に上がる予定だったが“50年に一度の大型台風”と言う事で各地の被害の映像も目にしていたため1日遅らせて小屋へ。ここでも埼玉は大した被害も出なかったようで、むしろ『予報の空振り』的な思いを持つ。すぐに何事もなかった事を素直に感謝。万が一のことを考え備えて、それが起こらない事はありがたいことなんだ。
③エリアメールのおかげで早起きする事になり、予定より早く大滝に着いてしまった。オーナーのゴローさん、セイちゃん、イシの3人で一緒に登山口へ移動。3人一緒に山に上がる事はめったにない。セイちゃんの荷物は20kgを超えている。
④草刈り機を担いだゴローさんは黒岩コースの「ふくろ久保」周辺の笹刈り作業。台風の影響による倒木もあり処理しながら上がる。その都度、背負子を下ろして写真を撮り、切って押し出して片づけ、また写真を撮る。書いてしまえば数文字だけれど、結構時間のかかる作業。直径1m近い倒木も発生。下手に動かそうとして“諏訪の御柱祭り”の木落とし状態で人間も一緒に落ちていくのも怖い。とりあえずすぐ上を迂回するようにする。ゴローさんの笹刈りも作業前、作業後の写真を撮りつつ進める。斜面で草刈り機を振り回すのも結構大変。
⑤【黒岩コースの桟道の丸太のネジが外れてぐらついています】とお客様からブログにメールを頂き、とりあえず針金で脇の丸太としばって修理。見ると土台の丸太が腐ってきてスクリューボルトが効かない。翌日カスガイでさらに固定。入れ歯のブリッジみたいな処理。でも土台が腐り始めているという事は歯茎が痛んだようなもの。他の場所でも同じ事が起こり得る。小屋としてはとりあえずの修理はできても本格的には管轄の環境事務所にお願いするしかない。以前は・・・と言っても昨年の夏から始めたブログだが・・・環境事務所の担当のKさんも時々このブログを見ていただいていた。直接の担当の方がかわられて今はどうなっているかな。ゴローさんからも伝えてもらう事に。私たちも小屋に上がるとき注意してみますが、お客様も気を付けて歩いてください。
⑥いろいろやりながら小屋に着くと、満面の笑みを浮かべたMさんがベンチで休んでいる。「やあ、お久しぶりです。いま、桟道修理してきましたよ。」とご挨拶。メールで知らせてくれたのはMさん。コースを変えて何度も雁坂に上がっているMさんは、今日は突出峠コースを上がり、私たちを待っていてくれた。「これ、差し入れです」と大きな大きな紙パックを取り出すと、『じゃあ、また来ます』とすぐに突出峠コースを下って行った。またおいでください。
⑦しばらくして峠方向からお客様。「ヒカリゴケ見つけましたよ」と。ブログに書いてあったので雁峠方向からずっと足元に注意して歩いてきたそうです。そして見つけたそうです。場所は・・・・・。更に受付の時リュックから出てきたのは「春を背負って」の単行本。「ブログに出ていたのでこの本買いました。まだ映画は見ていないけれど。やっぱり舞台は北アルプスよりこの辺の方が似合いますよね」と。セイちゃんもイシも、そうだ!そうだ!。見覚えのあるTさんも何度も通って頂いています。それとね、「あ、ヒカリゴケはあっちにも有るんだ」とイシは思いました。あっちと言う事は小屋から遠い事で・・・・雁峠の方から来た、と言う事は近くにもとあると言う事。ヒカリゴケを見る事が出来るのは1箇所ではない。これから自分の足元をしっかりと見つめながら歩く登山者の姿が雁坂峠を中心に増えるような気がします。Tさん、雁坂は遠い居酒屋。楽しい夜でした。
⑧気温16度の朝。トイレ掃除。EM菌の働きで臭いも少なくウジ虫の発生も少ない。最近は仕組みがよく解らないが、バイオ技術とかを使ったいわゆる水洗トイレのような快適な小屋が増えてきている。百名山の小屋やそのお隣の小屋も。埼玉の場合は公的予算が厳しくて、各小屋が全部自前でトイレ工事をしている。その金額は半端なものではない。公的補助も工事価格もよく解らないので...ようです、らしい。...と付け加えます。そして百名山の隣の“静かな雁坂小屋”はとてもそのような資金のゆとりはない。いま一生懸命に便器を磨いている。それが現実。せめてものスタッフの思いです。
⑨水源のタンクの点検。落葉が詰まっているのを取り除き、今日もバルブの開け閉めを繰り返しながら小屋まで戻る。タンクの近くでは水が冷たいためパイプが結露している。その水も1km引いてくる間にぬるくなってしまう。暑い夏、以前は小屋の近くから水がひけたのでコップの水も結露していた。トンネルが出来ると共に水が近くでは出なくなり、昔の思い出になってしまった。
⑩「水、分けてください」と沢登のお客様が来る。「おいくらですか」と聞かれてしまうと「あのお一人50円以上でお願いしています」と。うれしい。素直に有り難い。
『水はジャア、ジャア流れているじゃねえか。便所だってション便するだけだし、よごす訳じゃねえ。』言葉では聞こえてこないけれど体でそう言うお客様もまだいることも事実。たかが50円100円の話だけれど、それだけではない気持ちの通じ合い。50円が気持ちを分ける。
⑪イシは降りてきてしまったけれどセイちゃんは雁峠から笹刈りをしている。雁峠から雁坂嶺までが縦走路は雁坂の持ち分。露の付く夏に少しでもお客様が濡れずに済むようにと。ゴローさんの黒岩コースも同じ。ときどき三富から登られたお客様に「露で濡れちゃった」と言われる。道は普通に続いているけれど、あそこに線が有るんです。埼玉、山梨。管轄が違う。小屋のスタッフにはどうにもならない線です。でもそんなこと、濡れながら歩いてくるお客さまにとっては関係ないし。関係機関の方、どなたかこの記事読んでいただいていませんか。
⑫『雁坂小屋公式ブログ』と言いながら今日はものすごく私的な中身になってしまいました。写真もない字ばっかり。おじさんの愚痴話。
山から下りてくると、疲れを感じるのとは別に、心は大きく動きます。緊急地震速報から始まって心がゆすぶられたわずか1泊2日の小屋暮らし。絆とか、人と人との関わりあいとか、忘れていた事を思い出しました。Mさん、Tさん、Kさんそして多くのお客様、有難うございます。私もありがたいことをみつけましたよ。また小屋に上がります。おいでください、雁坂小屋に。